阪大謎スポット〜レーザーエネルギー学研究センター

地球全域に降りそそぐ太陽エネルギー。その合計に匹敵する出力を、0.5ミリの領域に集めて照らす装置がある。密集した光子はもはや優しい光ではなく、一塊の圧力として対象をつぶす。激光XII号。12本のレーザーで微小領域を射抜く、人類が手にした最高強度の「きれいな光」。

前回の「阪大謎スポット」では、光届かぬ闇の奥、医学系研究科地下に広がるコンクリートむき出しの広大な空間「Pit階」を紹介した。暗い所からの対比を狙ったわけではないが、本稿では読者を、阪大最強のそして世界でも有数の「明るい所」へ誘おう。

大阪大学レーザーエネルギー学研究センター(レーザー研)は吹田キャンパスのほぼ中央に建っていて、巨大である。事前に見学する旨を伝えておいた僕らは、まずは玄関から階段を上って2階の応接室へと通された。深く尻を飲み込む椅子や、意図不明にこちらを睨みつける金剛力士象に少しだけ気後れしていると、奥のスクリーンに90年代教育番組風の映像が流れ出した。慣性核融合、惑星中心等の極限環境の再現実験、高温高圧下での新たな物性の発見、などなど。大出力レーザーの様々な応用について紹介する、DVDの上映。その後、猿倉教授から、レーザー核融合研究の現状と、それを取り巻く情勢についてちょっぴりディープなレクチャーを受けることができた。

レーザー研の持ついくつかのレーザー発生装置のうち、最大規模の「激光XII号」でレーザーが放たれる過程を、少し文学的に描写しよう。 ネオジウムから打ち出されたか細い光線は、まずはいったん12本に分割される。340メートルの道程の間に並んだ幾枚もの特殊なガラスを通過するたび、それぞれの光線はその強さと太さを増していく。十分肥え太ったレーザーたちは鏡によって向かうべき方向を整えられ、巨大な結晶を通ることでその”色”を変える。目標の直前で細く細く絞り込まれた12本の同胞たちは、ある時は球対称に、またある時は同一方向から一斉に、設置された1ミリ以下の微小な資料を一撃する。

応接室でのレクチャーの後に僕らが通された展示室では、この一連の過程で用いる機材について一つ一つ説明を受けた。反射しきれなかった光によって鏡が破損するのを防ぐため、レーザーを太く保ち目標直前までエネルギー密度を下げておく複数枚のガラスと、その配置。レーザーの波長を研究者の使いやすいものに変更するためにもちいる巨大な結晶。それを通常よりもずっと早く作成する結晶成長技術。反射方向を正確に制御するため、1ミリの1000分の1以下の歪みもなく磨き抜かれた鏡など、最強高度のレーザーは、複数の高度な要素技術に支えられている。

展示室の後、僕らは、レーザー増幅部の上部に架けられたガラス越し全景を見渡せる橋の上へと案内された。いよいよ高強度レーザー装置「激光XII号」との対面である。 ガラスの向こうには金属によっていささか過剰に装飾された4本の直線があった。 各々の直線は、4つのビームを束にしたもので、右手の3本、合計12ビームが激光XII号に属する。XII号という名称は構成するのレーザーの本数が12本ということに由来しており、これまでには激光I号や激光IV号が存在したとのこと。展示室で見た、ガラスや鏡が、緑色の筒の中に封じられ、レーザーの入射を待ち構えていた。

12本のレーザーは増幅部の終端のギヤ室で、直進か90度曲がるかを選択される。それぞれの進路の先には、レーザーを打ち込む対象を設置する部屋があり、一方の部屋では照射によって目標が動かないよう球対称にレーザーが打ち込まれ、もう一方では一方向から12本のレーザーを目標に打ち込む。実験の目的によってこのふたつの部屋のどちらかが使われる。増幅部とギヤ室の後、僕たちは球対称にレーザーを照射する部屋の方を見学させて頂いた。 増幅部とは違い、12本に分割された同胞たちが再び集うこちらの部屋は、相当に混み入っていた。中央のターゲットに向けて、12の方向からレーザーの経路が伸び、ターゲットを入れる部分の周りに建てられた作業用の台座が組まれている。台座の上には研究者の方々が様々な作業を行っており、機械の神に仕える神官を連想させた。だがもちろん、巨大な存在感を示す金属の塊ではなく、白い防塵服で黙々と作業する彼らこそが、この空間の真の主役なのだ。

レーザー研は見学者を随時受け付けている。大阪大学の大学祭の時期には、研究室公開の一貫として、装置のかなり近くまで近寄れる見学会も実施しているとのことだったので、本稿を読んで実際に大強度レーザー発生装置をご覧になりたいと思った読者には、このあたりを狙うことをお勧めする。 最後に、お忙しい中装置に関する詳しい説明や、広報誌のバックナンバーの手配などをして頂いたレーザー研のスタッフの皆様に感謝の言葉を述べて、筆を置きたいと思う。ありがとうございました。

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