石黒浩(基礎工学研究科 システム創成専攻教授)

世界的に有名な研究者である石黒先生。
アンドロイド研究や本に対する考え方から、これからわたしたちが学んでいくためのヒントが得られます。
「世界の生きている天才」と呼ばれる先生の頭の中身を、少しだけ覗いてみましょう。

石黒先生プロフィール

石黒先生1963年滋賀県生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授および国際電気通信基礎技術研究所(ATR)フェロー。工学博士。社会で活動できる知能ロボットの実現を目指し、これまでにヒューマノイドやアンドロイド、自身のコピーロボットであるジェミノイドなど多数のロボットを開発。ロボカップ世界大会では5度の優勝(TeamOSAKA)。「世界の生きている天才」ランキング(英Synectics/2007年)では日本人最上位の26位選出、「世界が尊敬する日本人100人」(ニューズウィーク日本版/2009年)に選出など、最先端のロボット研究者として世界的に注目されている。

インタビュー

今日はお忙しい中お時間を割いてくださり、ありがとうございます。まず先生の研究内容について簡単におたずねしてもよろしいですか。
僕はロボットやアンドロイドの開発を通して、人と人、人とロボットの関わりを調べてます。

石黒先生はこれまで、ロボットらしいロボットではなく、見た目が人間に近いことを重視したアンドロイドをつくっておられますよね。
人って表面しか見ないでしょ?日常生活において人はすべて表面的で、それが全てでしょ。僕はそこに原理を求めたいと考えているんだよ。たとえば分子生物学をやったところで、人のことをよくわかった気にはならない。僕らが知りたいのは、いまここで起こってること。これは全て表面的なことで、この表面的なところに見かけや動きが大事なのは当然だ。それに、僕らが人の心をどこに感じるかと言えば、見かけや動きとかの表面的なことだけで、脳の活動を直接思い浮かべながらこの人に心があるなんて思い浮かべてるやつはほとんどいないでしょ。今までは、見かけや動きといった一番もっとも大きな問題に目をつぶって、解きやすい問題だけやってきた。でも、アンドロイドをつくれば、いまこの場で起きていることをそのままストレートに理解できる可能性があると考えているんだ。

そうして研究されてきたアンドロイドは、今やぱっと見ただけでは人間と区別つかない程“人間らしい”わけですが、先生がお考えになる「人間らしさ」っていったいなんでしょうか
それがわからないから研究してるんだよ。たとえば人間の定義ってどんどんかわる。大昔は五体満足であることが人間だった。奴隷や手足がない人は人間とみなされず、社会に受け入れられなかった。でも今はどうだろうか。肉体をもって人間らしいかどうかを判断する価値観がなくなった。僕らは常に人間らしさの定義をかえていて、それは技術によってかわってきた。手足を義手や義足に変えても、ぼくらは人間と定義できる。体のすべてを機械に変えても僕らは人間と定義できる。じゃぁ何をもって人間と定義するのか。言葉で定義できるのか。技術によって人間のいろんな能力を置き換えていって、最後に残るものは何かっていうのを考えることが、ぼくは人間の存在価値だと思っている。それ以外に人間に存在価値はないし、そのための大脳なわけだ。どうして僕らはサルと違ってこんなに大きな大脳を持っているのか、それって人間とは何かを考えるためでしょ。

なるほど。一方で最近発表されたエルフォイドは、人間のようであって、でも誰かをモチーフにしたような見た目ではないですね。
これまで見かけを人間に近づながらアンドロイドやジェミノイドを開発してきたが、全てを完璧にきれいにしすぎると、逆に人間らしくなくなることが分かった。そこで、年齢も性別もわからないようなミニマルデザインのロボットを作って、そこから声が聞こえてくるようにすることで、声から自分が想像する姿を思い浮かべてもらうようにした。誰かの姿かたちを想像しながらそのロボットに触れると人肌のように感じられ、年齢も性別もわからないような姿が「その人」であるようなイメージを与えるんだ。

では少し本の話にうつりますね。先生のお部屋には本棚が5台あるんですけれども、例えば並べ方とかは何かこだわっていらっしゃるんですか
一応一生懸命整理しているつもりなんだけど、机に近いほうから自分の専門に近いロボット関係、画像処理、次は専門の話であるシステム工学、その次が人間に近い認知とかの本で、一番向こうが報告書だね。まぁでもいろんな人が本を送ってくれるので、ロボット関係の棚から本がはみ出してしまってるね。

ご自身が使いやすいように整理されているんですね
うん、本棚は頭の中の地図みたいなものになるよね。ことばっていうのは僕らにとって唯一の財産みたいなもんやん。頭の中に入ってることばみたいな。それを書き起こしたのが本やから、当然その本棚の中身と頭の中身って似通ってくるよね

ことばが僕らの財産…ですか…
うん、頭の中が言葉にあふれるような思いをしないと、僕らは前に行かないんだよ

石黒先生が学生におすすめしたい本はなんですか
生態学的視覚論」(著:ギブソン)かな。
これは、古い本なんだけど、いまの研究の主流を全部言い当てているような本。いまでも研究の最先端を勉強できるような本。ギブソンは体の重要性を最初から言っているというところがすごい。人工知能は生物から学ばなければならない、もっと生物らしく、体を持つことの意味とかの根本的な問いをもつべきだということが書かれている。

人工知能なのに「視覚」の本なんですね。
人工知能の半分くらいの研究は視覚の研究からきている。人間が情報を得る手段の90%は視覚だからね。それまでは、カニッツァという人が書いた「視覚の文法」って本が主流だったんだけど、これは色々と偏っていたからなぁ…でも、本ってそのままのメッセージを読むものじゃない。そっからどんだけ自分のことが掘り下げられるかが重要なので、良い本っていうのは丸呑みしてしまって、自分が作れなくなってしまうからよくないんですよ。だから、ちょっと悪い本の方、反論できる本のほうがはるかに成長できる。だから、私はまるまるこの本が好き、経典にしていますっていう本はないね。

では学生に限らず、先生が一般向けにおすすめしたい本はなんですか?
これかな。「掌の小説」(著:川端康成)
ぼくはそれいつも読んでるから。
あとあんましこっちは薦めないけど。「人間失格」(著:太宰治)
人間失格はこれはもう僕の趣味だな。人間の共感をかんがえさせられる。川端康成の方は芸術作品だと思うんだ。太宰治の方はね、私小説だから、シャガール的なんだよ。思いつくままで、考えて書いてないのに、言葉の使い方が天才的だ。でも、書いてることはくだらないよ。人を裏切ったとか死にたいとか だけどものすごい人間臭さが感じられる。

石黒先生はどちらのような本を書きたいですか?
それは当然、太宰の方だよ。才能が、本当の天性がなければ書けない。論理じゃないから。言葉っていうのは、学べるようでいて学べないもの。自分も太宰のようなところまでいけると信じたいけど、まだわからないね。才能がなければ書けないという領域にいきたい。まぁここで難しいのは、受け取る側もこれを受けとめるだけの能力があればいいんだけど、世の中の人(受け取る側)の言語能力が乏しいと、むなしくなるよね。こちらがいくら練っても伝わらないし、そこがジレンマだな。

では最後に、「未来」ときいて思い浮かぶ本を教えてください。
未来っていったら…これになるかなぁ。
ロボットとは何か―人の心を映す鏡」(著:石黒浩)
どうすれば人を創れるか―アンドロイドになった私」(著:石黒浩)
アンドロイドを造る」(著:石黒浩)
生きるってなんやろか」(著:鷲田清一、石黒浩)
やっぱり自分が書いた本がいちばん面白いし、いちばんぴったりくる。自分が書いた本以外は満足しないし、ぴったりなんてこねぇぞ。
「ロボットとは―」は、ロボットを創ったらどこまで人のことがわかるのかを考えて書いている。一方で「どうすれば―」は、アンドロイドになったら何を思うのか、どう思うのかっていうことを書いた。「ロボットとは―」の後日談のようにもなってる。
「アンドロイドを―」は、アンドロイドの最新の研究をまとめてるねん。僕が撮った非公開の写真がいっぱいあって、非常に軽い読み物になってる。
「生きるって―」は、鷲田元総長との本。鷲田先生は臨床哲学で、僕はアンドロイド。でも実はおんなじことをやっている。「ひとってなにか」「生きるってどういうことか」っていうのを、違うフィールドでおんなじようにやっているっていうことがよくわかる本。要するに、研究には分野なんてないんだってことがよくわかる。鷲田先生との対談から、人の価値とか生きる意味っていうのがぼくらなりには見えてきたんだ。この本は大阪大学がとても魅力的に映った本だと思うよ。

ロボットというと遠い未来の話かと思っていましたが、意外に近い未来のことなんだとわくわくさせられました。どうもありがとうございました。

オススメ本Q&A

学生向けのオススメ本
生態学的視覚論」(著:ギブソン)

先生自身のお気に入りの本

掌の小説」(著:川端康成)
人間失格」(著:太宰治)

テーマ「未来」と聞いて思い浮かぶ本
ロボットとは何か―人の心を映す鏡」(著:石黒浩)
どうすれば人を創れるか―アンドロイドになった私」(著:石黒浩)
アンドロイドを造る」(著:石黒浩)
生きるってなんやろか」(著:鷲田清一、石黒浩)

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