小矢野哲夫先生(言語文化研究科教授)

プロフィール

1973年神戸大文卒。78年東北大院博士後期中退。大阪外大助手、講師、助教授を経て94年教授。
2007年10月から大阪大院教授。箕面キャンパスに32年。
モダリティ副詞と言語行動の観点からするドラマの会話分析に関心を寄せ、
日本語とジェンダーの問題も考えている。
趣味は日帰り名所探訪と写真と邦画鑑賞。ワードウォッチングは長年の趣味で、
週1回「新・ことばの路地裏」と題する文章をHPに連載中。
http://www001.upp.so-net.ne.jp/ketoba/
小矢野先生

インタビュー

小矢野先生は日本語について研究されているとのことですが、言葉に興味を持ったきっかけは何だったのですか?
一番のきっかけは、祖父母の言葉が自分とはちょっと違うと感じたこと。
歩いて行ける距離に住んでいるのにちょっと違う。
親父の言葉もちょっと違ったね。戦争で鹿児島に行ったりしていたので。
母は学生の時外に出てたから、これまた違うんだよ!
そういうちょっとした違いに気づいて、考えるようになったのが「ことばのめばえ」やな。
日本語は日本で生まれ育てば誰でも話せるけど、追究しだすとものすごく奥が深いですよ。
一般教養で僕の授業をとってくれてる外国語学部以外の学生さんなんかは、
素直に話に感心したという感想を書いてくれるけど、知らないということのなんと恐ろしいことか(笑)
ぱっと見た感じは「ああ、きれいやなあ」ってぐらいやけど、研究を続けるとトゲに気づいてくる。

ところで、「日本語」と「国語」というのは別物なのでしょうか?
いい質問だね!
簡単に言うと、日本語というのは「世界の中に数ある言語のうちのひとつ」ということで、
一般の言語学的な観点から分析する対象です。
これに対して「国語」というのは、この島国日本全体の言葉として、
別の言語を全く意識しないで見ているのです。
だから「国語」と言うんですよ。国語って「national language」という意味でしょう?
どこの国であれnational languageはそれぞれにあるはずなのに、
「国語」といったら「日本語」しか指さないという、非常にローカルな捉え方なのです。
戦後まではそれで生きてこられたけども、日本が世界の一員となり、
日本語を通して日本の文化を知りたいという、外国からのニーズが出てきた。
それならば外国人に日本語を教えなければならないわけですが、
そのときには客観的な手法を使わないと通じない。
普段日本語を使っていない相手に教えるわけだから、「わかるよね?」は通用しない(笑)
そういう人たちに言葉を教えるためには、井の中の蛙の理論ではいけない。
一般言語学の手法を使って分析し、教育にふさわしいメソッドを使って提示していくというように、
非常に客観的な眼で捉えるのが「日本語」なわけです。事実は同じでも見方はまったく違います。
昔は、国史学や国文学など、国語に限らず日本のものは「国」がついてたけど、
今はそんなのはやらない。相対的な視点がなかったからだね。
でも、今や世界が相手だからそういう見方ができないと勝負できない。
だから今は「日本」とつくようになってきてる。これは進歩だね。

では、「母語」と「母国語」は同じですか?
そこがまた難しいんだよ。
「母国語」は文字通り自分の「国」の言葉のことだけど、例えば在日韓国人の3世4世の人たちの中には韓国語を話せない人がいたりする。
それに対して「母語」は、国籍に関係なく生まれ育った場所の言葉。
だから「母語」と「母国語」は明確に区別して使わないといけないんだけど、その区別は
僕の中でも比較的新しく登場した概念なので、けっこう難しい(笑)
これからの日本語研究、言語研究はどうなっていくと思われますか。
今までの研究というのは、文字を媒介にする研究だと思っているのね。
でも、これからの研究は音声や映像が関わってくる。
単純に言った言葉を文字に起こして、その文字を分析するのではなく、
その言葉を、どのような視線で、どのような表情で、どのような状況で発したかというような、言語そのものだけではなく、言語の周囲のいろんなファクターをひっくるめて言語行動を捉える、そういう研究になってきたと思う。

僕がドラマを分析したりするのは、フィクションではあるけれどもそこには一定の約束事があるから。
その約束事をいかに再現していくか、というのが課題です。
「花より男子」なんてのは相当あからさまにフィクションですが(笑)

ところで、研究室の入り口に「難波 Nanba」と書かれた看板の写真が飾ってあるのは何なのでしょうか?
あれはね、「なんば」の「ん」が「n」で書いてあるんだよね。普通はmでしょう?
なぜかというと、あれは国土交通省が管轄の地上の看板なんですよ。
地下は大阪市営地下鉄だから別の管轄で、ヘボン式で表記している。
管轄によってルールが違う。まあ雑学だよね。僕がやるから金になるんだよ(笑)
学生さんがやったって「ああ、そうなんだあ」で終わるけど、
僕がやったら「さすがですね、そこまで追求してるんですね!」と褒めてくれる(笑)

研究者としての顔ではなく、普段の小矢野先生の楽しみは何なんですか?
映画とドラマですね!松嶋菜々子が大好きで、宮崎あおいも好き。
二宮和成くんなんかは良い演技をしますね。桜井翔くんは育ちの良さが出てていいね。

オススメ本Q&A

本棚についてのコメント
雑誌が好きで、創刊号からコンプリートするのが主義。
古いやつはバックナンバーをそろえるのが大変なのであまり買わないけど、
研究生活をはじめた後に発刊されたやつで面白そうなのはだいたい買ってるね。
もう休刊になってるのもあります。
言語の雑誌はオタクぐらいしか読まないから出版事情が厳しいんだよ(笑)
でも退官が近いので、研究室の本の半分ぐらいは自宅に持ち帰った。
持ち帰ったのは雑誌以外が中心。
雑誌をその辺に積んで置いてしまうと絶対読まなくなるから(笑)
ドラマのDVDや漫画も本棚に入れていますが、これは研究に使っています。
学生が研究に使ったものを買うこともあるね。
学生向けのオススメ本
教育文庫3 日本語文法・形態論(著:鈴木重幸)
日本語の研究を全体的に把握できる。
日本語について勉強してる学生向けになってしまうけど、
僕は学生一般向けの本なんて無理(笑)

先生自身のお気に入りの本
国語構文論(著:渡辺実)
日本語研究の方法(著:松本泰丈)
日本語文法・連語論<資料編>(編:言語学研究会)
言語を記述して考えるということがいかなる作業であるかを学んだ本です。
データを集めて分析することの大切さを教えてくれた。

テーマ「未来」と聞いて思い浮かぶ本
ヴァーチャル日本語 役割語の謎(著:金水敏)
役割語研究の展開(著:金水敏)
役割語自体は事実としてずっとあったのだが、金水先生が役割語という名前をつけて発展させたのね。
日本語研究の新しい地平を切り開く本です。

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