仲野徹(生命機能研究科/医学系研究科教授)

プロフィール

1957年、大阪市旭区生まれ。大阪大学医学部を卒業後、3年間医業を営み、以後
は研究者生活。「いろいろな細胞はどうやってできてくるのだろうか」について研究
しています。本(特に伝記)を読んだり、旅行したり、あほな話をしながら飲んだり
しているときに幸せを感じます。
仲野先生

インタビュー

どのように本棚を使われていますか?
基本的に本箱を普段見ることはないです。見るのは2段目。講義で参考にするときに見ています。あとはもう何かの時に本棚に入れて、その後は入れっぱなしですね。自分が書いた本や人からもらった本が多いです。あとはハウツー本が多いですね。すごく気に入った本は置いています。家に置いてわからなくなったら、いやなので(笑)

本は読まれますか?
本を読むということがほとんどないです。辞書も今は見ないですよね。専門外のことを勉強するときに、専門よりちょっと離れた本を読むことがあるくらいですね。あとは教科書ですね。本箱というのは、いらんというたらいらんのかもしれませんね。家に本置けないのでこっち(大学)に置いているという程度ですね。

家と職場の本は分けていますか?
完全に分けてはいませんが、分かれていますね。全ての本を本棚に収容するのは無理ですね。今、本は古書でもアマゾンの在庫にあるので、あまり本を置いておくという意味自体がなくなってきたような気がします。昔はそのとき購入しておかないと二度と手に入らんのちゃうかという危機感があったのですが、よほどのことがない限り、今はたいがいみつかりますよね。探す時間給を考えてみたら、アマゾンで購入した方が安い。本というのは前時代の遺物になるんちゃうかなぁという気はします。昔は論文でもコピーしたものをファイルにいれて本棚にいれたりしたけど、今は必要ないですからね。図書館と一緒で本箱も時代の遺物になりつつあるような気がします...とかいったら図書館の人に怒られてしまいますね(笑)

先生はどのような本を読みますか?
小説はあまり読まず、ノンフィクションが多いです。やっぱりノンフィクションの方がおもろい気がします。最近読んだ本で圧倒的におもしろかったのは『The Emperor of All Maladies』(著:Siddhartha Mukherjee)。これは、めっちゃ面白かったです。ヒポクラテスの時代のがんの話から始まって、今の分子標的療法の話まで、1人の内科のお医者さんが書いています。内容も単に歴史を追うだけではなくて、自分の診ている患者さんの運命とつりあわせながら書かれています。いくつもの意味で驚きました。著者は英語がネイティブの人ではないですが、知識の量も構成もすごいです。この本はピューリッツァー賞をとっています。

もう1冊は『The Immortal Life of Henrietta Lacks』(著:Rebecca Skloot)。ヒーラ細胞というのは、一番初めにつくられたがんの細胞株です。その人の家族のことやインフォームドコンセプトの話も掲載されています。著者はジャーナリストです。最近はそれらの本がお薦めです。

学生向けのお薦め本は?
1つは『フェイスブック』(著:デビッド・カークパトリック)。マークザッカーバーグの伝記です。もう1冊は『貧困のない世界を創る』(著:ムハマド・ユヌス)。バングラディッシュでグラミン銀行という、貧しい人に担保をとらずにお金を貸す銀行を作った話です。この2冊は全然共通項はないといえばないのだけど、あるといえばあります。今はたった1人の思いつきとか想像力で世の中が変わるとは思えないですよね。ですが、この2人は世の中を変えました。マークザッカーバーグがいなかったら、フェイスブックがあのような形で発達しなかったと思います。イスラム系の国で“直接民主主義”という形で政治体制が変わりました。フェイスブックは制度的な民主主義ではないけど、事実上の民主主義をつくったと思います。ムハマド・ユヌスは貧しい人を救いました。ムハメド・ユヌスがいなかったら、あのような銀行のつくり方はできなかったと思います。オリジナリティがありました。20世紀後半、21世紀にかけて、たった1人で世の中を変える制度、仕組みを作れることがあるんやで、と学生に言っています。これを学んでほしいという意味で、この2冊をお薦めします。おもしろいですよね。1人の人が...まあ完全に1人の思いつきかどうかは別として、こつこつ...マークザッカーバーグはこつこつといっても2年か3年やけど、1つのシステムを作りあげて、それがものすごくたくさんの人に影響を与えるということが今の世の中にもあるんやな、と私にとっては新鮮な驚きでした。若い人にはそういうことがあるということを知っておいた方がよいかなと思い、この2冊をお薦めします。

先生自身のお薦めの本は?
専門でいうと『分子生物学の夜明け』(著:H.F. ジャドソン)という本。もう販売していないです。生命科学における知的な文化遺産だと思います。これはおもしろい。分子生物学ができた頃からの話でその歴史が書かれています。この本はH.F.ジャドソンという人がワトソンやクリックなどの生きている人にインタビューして書いた本です。第1章がDNAの構造、いわゆるワトソンとクリック、それからロザリンド・フランクリンのデータを盗んだ話が載っています。第2章がRNAで、RNAは何をしているのかわからなかったのだけど、それをパズルみたいにみんなが解いていきます。いくつもの話があって、全然違うと思っていた2つの話が全く同じような現象をみていることに気づいて、一気に「mRNAというものが存在するはずや」となります。そういうことがわかっていく物語です。この本のものすごいと思うことは二次資料ではなくて、著者のH.F.ジャドソンが本人に聞く、手紙を送る、などによって得られた情報をもとに書かれていることです。英語の原題は、「創造の8日目」。

その他にお薦めの本は?
伝記関係で圧倒的におもしろかったのが『ヒトゲノムを解読した男 クレイグ・ベンター自伝』(著:J・クレイグ・ベンター)。クレイグ・ベンターというのは日米欧が巨額の金をかけてゲノム計画を進めているのに対して、セレラ・ジェノミクスという企業を立ち上げて、たった一人で挑んだ男です。英語のタイトルは『A Life Decoded』。波乱万丈もええとこなのですよね。研究を始めたのはとても遅いです。30歳くらいだっと思います。ベトナム戦争に衛生兵でいって、人の命というのに異常なまでに感動を覚えて、戦争から帰って来てから、彼は研究を始めました。伝記で圧倒的におもしろかったのはこれと、『スティーブ・ジョブズ 偶像復活』(著:ジェフリー・S・ヤング)というスティーブ・ジョブスの伝記。英語のタイトルは『iCon』

—お二人についてもっと教えてください。
僕は二人はものすごい似た人だと思います。似ているところは、カリスマでありついていく人はついていくけど、嫌いな人はとことん嫌うというところです。好かれ嫌われがすごく激しいと思います。感情の起伏が激しいのだと思います。もう一回、人生をやり直すとしたら、何をしたかという質問をすると2人とも[子供を育てたかった』と答えたようです。クレイグ・ベンターとスティーブジョブスはものすごい似ていると僕は感じます。どっちも成し遂げたことはすごい。クレイグ・ベンターはアドレナリン出るのが好きらしいです。趣味が競技ヨット。死ぬような目に遭うときがすごく気持ちええということらしいです。今は、未知の生き物を海でごそごそととってきて、ゲノムを片っ端からとってくるということをしています。これをすると、生き物は特定できないけど、どういう遺伝子があるかがわかる。もう1つやっていることは人工生命を作ること。

スティーブ・ジョブスもすごいですよね、肝臓移植をして死にかけているのに。アップルの初期の配線が芸術的だと思います。デザインへのこだわり方がすごい。iPhoneとかiPadとか機能とデザインというところに収斂しているみたいですね。スティーブ・ジョブスがもう1つ天才やと思ったのは、ピクサーという企業を育てているときです。ピクサーは今、CGのソフトのパテントをほとんど持っています。ピクサーの創始者の一番初めのCGを見て、絶対いけると思って、かなりの額を投資。自分が事業をするだけではなくて、先見性もすごいと思いました。例えば、クレイグ・ベンターもすごくて、ゲノム配列を読み取る自動のシーケンサーがでたときに絶対いけるはずだと思って買い占めて、条件決めする、そして実際できる。いけそうな技術があったときの突っ込み方が尋常じゃない。クレイグ・ベンターもそうだけど、頻繁に出資者と喧嘩しますよね。ベンチャービジネスの社長ってみんなそうだと思います。クレイグ・ベンターも何回も会社をクビになっています。こんな本を読んだら、小説なんて陳腐で陳腐で…好きなジャンルは伝記です。圧倒的に伝記。伝記読んでおもしろいと思ったのはクレイグ・ベンターとスティーブ・ジョブス。比較的最近ですが、双璧やと思います。

—なるほど、とてもおもしろいですね。
マリーキュリーもおもろいです。マリーキュリーの何がおもろいかというと、みんなラジオンを見つけるところまでと思うかもしれませんが違います。マリーキュリーのおもろいところは後半です。ピエールが馬車に轢かれてから、不倫騒動などに巻き込まれるところがおもろいです。やはり、伝記は浮き沈みがないとおもしろくないですよね。右肩上がり一本の伝記っておもしろくない。ベンターとジョブスは浮き沈みがあるのですよね。僕が今まで読んだ中で一番おもしろくなかった伝記はタイガーウッズです。この前、売春問題でこけたから、あれからのしあがってきたらおもろい伝記になるなと思います。昔のタイガーウッズは右肩上がりでした。野口英世の中では、酒飲みだったとか、金遣いが荒いとか、そういうところがいい。偉人らしいところばかりとは違って、毀誉褒貶(きよほうへん)があるところがおもしろいと思います。

「未来」と聞いて思い浮かぶ本はありますか?
『あの頃の未来 ―星新一の預言』(著:最相葉月)。星新一のショートショートを読んだことありますか?そういえば、星新一の伝記もおもろいですよ。お父さんが星製薬という製薬会社の創業者です。星新一は東京大学を卒業後、大学院に進学していたのだけど、父の急逝後に退学し、星製薬の倒産整理をしてから小説を書き始めます。その星新一は未来のことを書いていますが、それを現代的に読み解こうというのがこの本です。再生医学ではないけど、例えば、体のパーツがとりかえられる時代が来たらどんなことが起こるのかということを星新一はショートショートで書いています。この本は、それをどういうふうに現代において解釈できるか、ということが書かれています。星新一というのは作品に3つのことを書かなかった。時代を書かなかった、女を書かなかった、暴力を書かなかった。時代背景を全く書いていないから、現代(いま)用に読み説くこともある程度可能なのです。年代やある特定の時期の技術というのを盛り込むと、現代(いま)用に読み説くことはできません。僕はすごい好き。未来といったらすぐにこの本を思いつきました。

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