中道正之(人間科学研究科教授)

「とにかく動物が大好き」と語る中道先生。研究対象であるサルの見分け方の話を皮切りに、先生の学生時代のこと、果ては私たちの「食」と「知性」の意外な関係性にまで話は及びます。動物への愛に溢れたインタビューをぜひご覧ください。

中道先生プロフィール

中道先生(野外調査風景)
サルからヒトまでの霊長類の比較行動学の研究に従事。30年以上にわたり、野生ニホンザル集団の中で暮らすサルの顔を覚え、「誰が何をしたか」を記録しながら、サルの行動発達や母子関係、老化のプロセス、社会的知性などを明らかにしてきた。サンディエゴ野生動物公園(アメリカ)で暮らすゴリラ集団の観察も10年余り行っている。ヒトに近縁なゴリラやニホンザルを見つめることで、ヒトの理解にも近づけると思っている。

インタビュー

先生の研究内容について教えて下さい。
霊長類の生きざまを実証的に明らかにすること、生きざまを人様に伝えることです。ヒトとはなんぞやを、サルの研究を通して明らかにすること。・・・というのが公式な回答です。(笑)
とにかく、動物が大好きなんです。観察を通して動物がどのように生きているかを明らかにしています。最近はニホンザルだけでなく、ゴリラ、キリン、クロサイも研究対象です。研究室の学生のみんなもサルや他の哺乳類の行動観察を楽しんでいます。具体的には、顔を覚えて、誰が何をしたかを記録します。行動の記録の集積から、いろいろなことがわかってきます。研究テーマとしては、こどもの発達、親子の関係、集団内の社会関係、社会的知性などがあります。

どうやって名前をつけるのですか?
私が研究している岡山県真庭市の神庭の滝周辺で暮らすニホンザル集団では、名前の付け方が決まっています。母親の名前に、子の生まれた年の下二桁を付け加えていって命名するので、例えば「ペット9299」とか。これは、ペットという名前のメスから1992年に生まれたメスが1999年に出産したサルということを意味します。つまり、ペットとペット92は母と子で、ペットとペット9299は祖母と孫の関係であることがわかります。これは正式の名前で、もちろん、ニックネームもついています。
実は、動物の個体識別、つまり、ヒト以外の動物に名前をつけて研究するというやり方は日本発祥なんです。それまで、この手法は欧米では擬人化につながるということで、避けられていました。でも、動物を見続けていると、いつの間にか顔も覚えられるし、一頭一頭個性があることもわかります。だから、それぞれの動物に名前がつけられるようになります。

顔を見ればどの個体か見分けられるんですか?
顔だけで分かりますね。だれでも、少し見続けたらニホンザルの顔ならば、すぐに覚えられます。

えっ!では双子の場合はどうするんですか?
良い質問ですね(笑)まれに双子もいます。学生時代に研究していた、淡路島のニホンザル集団にいました。最初は困りましたが、慣れてくると一目で、双子も区別できるようになりました。ニホンザルは顔に毛がないので、分かりやすいんですよ。それに対して、ワオキツネザル(マダガスカルに生息しているサル。霊長類の中では、最も古いタイプのサル)の顔に毛があるので難しかったですねー。でも、何事も好きなことだったらできるんじゃないですか(笑)

学生向けのおすすめの本を教えて下さい。
高崎山のサル」(著:伊谷 純一郎)がおすすめです。
大分県にある高崎山(大分市)に生息しているニホンザルの生き様がわかる本です。
伊谷先生が27歳ぐらいのときに書かれた本なのですが、処女本というのはなんだかんだいってその著者の本で一番いい本だと思います。今も世界のトップ集団を走る日本の霊長類学の草分けの時期の研究者の姿が生き生きと伝わる本です。
私は大学1年生の頃から、今私がいる比較行動学の研究室に出入りしていました。この伊谷先生の本をはじめとして、人類学や霊長類学、そして心理学の分野の本を読んでいましたね。岩波新書は100冊以上を読んだと思います。。他にも、ヘッセや三島由紀夫、五木寛之、團伊玖磨などの本を無節操に読んでいました。なつかしいですね。

なるほど。他におすすめの本はありますか?
もう一冊のおすすめ本は、「人間はどこまで動物か」(著:ポルトマン)です。これも岩波新書です。こういうのを読んだから今の私がある、と言えるかもしれません。今の学生の人にとっては古典になるんでしょうか……。
ヒトには、他の動物と異なるところがあります。例えば、ウマは生まれてすぐに歩けます。イヌはすぐには歩けません。ニワトリも生まれてすぐに歩いて餌をついばめます。ツルはどうだと思いますか?

「ツルの赤ちゃん」と聞いてちょっとすぐには想像できないんですが……(笑)
こういう話がぱっとできるのは研究室の中だけですかね。(笑)ツルは裸同然で卵から孵りますから、孵化直後は動けないんです。このように生まれてすぐに動ける動物と、動けない動物がいます。霊長類の場合は、すぐには歩けませんが、手足の指でしっかりと母にしがみつけます。目も見えています。これに対してヒトは、身動きできない状態で生まれてきます。目はぱっちりしていて、味覚などは発達しているのに、一人で立って歩けるまで1年もかかります。これは、生理的早産なんです。ヒトの赤ちゃんは生まれたときは3000gだけど、歩けるまでに発達すると10kg近くになりますよね。そこまでお母さんのおなかの中に留まっていることができないのです。そこまで大きくなったら、出産のときに、大きな赤ん坊の頭が母の骨盤を通れなくなってしまいます。だから、進化の過程で、ヒトは1年ほど早く生まれるようになったのでしょうね。これが、ポルトマンの「人間はどこまで動物か」の中身です。
では質問ですが、「ヒトの特徴」は何だと思いますか?

「ことばを使える」「二足歩行ができる」「抽象的な思考ができる」とかでしょうか?
それはヒト「だけ」の特徴ですね。「赤ん坊にお乳をあげる」もヒトの特徴です。このように、僕はヒト「だけ」が持っている特徴に目を向けるだけでなく、ほかの動物も持っている「共通の」特徴に目を向けることによっても、人間を理解することにつながると考えています。「サルを鏡としてヒトをみる」「サルを通してヒトをみる」という表現を私は使っています。
ところで、研究者というのは自己顕示欲が強いので、自分の本も推薦したいんだけど、良いかな?(笑)「ゴリラの子育て日記」(著:中道正之)。これを読むと、ゴリラとヒトの類似性がわかってもらえるんじゃないかな。著者の私が読み返してもおもしろいし、学生にぜひ読んでもらいたい本です。自分の研究のおもしろさを理解してもらいたいという意味では、これをおすすめしたいですね。(「ゴリラの子育て日記」は昭和堂から出ています。2200円です。買ってください。)

「未来」と聞いて思い浮かぶ本はありますか?
創造―生物多様性を守るためのアピール」(著:エドワード・O.ウィルソン)
生命の多様性〈上〉〈下〉」(著:エドワード・O.ウィルソン)
趣旨としては、地球上に生きているのはヒトだけではない、ということです。いろんな種が生きているからこそ、ヒトが生きていけるんです。“Umbrella species”という言葉があります。例えばゴリラが棲めなくなったということは、その森は他の種も息絶えている可能性があります。これはどういうことかというと、小さな昆虫がいなくなると土が硬くなってしまいます。そうすると植物も生えない。その結果、生き物は生きていけなくなります。つまり、目立つような動物(Umbrella species)が生き残っているということは、多くの動物は生き残っている、と言えるんですね。

なるほど。ではヒトも“Umbrella species”なんでしょうか?
しかし、ヒトが生きているというからといって多くの動物が生き残っているとは限りません。ヒトはあまりにも破壊するのが上手だから。未来を考えるためにはこういう本、あるいは逆に古典の本でもいいし、とりわけ「高崎山のサル」のような本を読むことは、未来を考えることにもつながると思いますね。
もう一冊、おすすめの本は「動物の食に学ぶ」(著:西田利貞)です。これは霊長類がどんなものを食べるかというのをコラムに書いていたのをまとめたもので、とても読みやすい本です。人間学にあたる本とも言えるかもしれません。人間の食がどれだけ多様になっているか、破壊的になっているかが分かります。動物の食べ方がわかると、人間の食べ方の特異性がわかります。例えば、私たちは塩分をたくさんとりますよね?

はい。他の動物は摂らないんですか?
ほかの動物で塩分をたくさん摂っている種はあまりいません。ぼくらはいらない分をかなり食べているんです。あるいは、肥満というのが問題になるのは、ヒトとペット動物だけです。ヒトも他の野生動物も飢餓状態に耐えられるように生き残ってきているのに、ヒトの場合、飽食の時代ですから、食べないように努力しなければいけない。これってものすごくしんどいですよね?

目の前にある食べ物を我慢するのは……つらいです。
この訓練を僕らは進化の中で受けてないんです。こういったことを、この本から学べるんじゃないかな。チンパンジーの場合も、生まれてきたときはややふっくらしていたりするやつもいるんだけど、野生である限りにおいては成長するなかでスレンダーになっていくんですよ。それに対して、餌付けした場合や飼育した場合は、ものすごく太るものもいます。飢餓状態にも耐えられるように進化してきたから、必要以上に食べてしまうとすぐに太るのでしょうね。そうそう、最近のペットフードはカロリーをおさえたものが主流だし、飼い主が無節操にえさを与えないように指導されるそうですよ。食を通して考えるというのは、とてもおもしろいと思います。
僕らの分野でいうと、霊長類がどうしてこんなに知性が豊かになったのかというと、いろいろな理由はありますが、社会生活をするからだと言われています。例えばニホンザルだと、集団の中にはたくさんのサルが一緒に暮らしています。例えば、オトナメスが50頭おれば、1位から50位まで優劣の順位があります。

全員に順位付けがあるんですか!
そうです。例えば、30番目のサルは、1〜29番目のサルは自分より優位だし、31〜50番目のサルは劣位であることを知っています。周りのサルがどういう順位で、ということを考えて行動しなきゃいけない。それに例えば目の前の2頭の間に親-娘という間柄がある場合も、「何か特別な間柄があるぞ」と理解していることは実証できています。そういう社会的な知性をもって生活しているんです。
西田先生の本に話を戻しましょう。ヒトは火を使いますよね。火を加えて食べ物を調理することによって、食べ物の消化がよくなったと言われています。1日のカロリーのうち30%は脳が使っていると言われていますが、これだけの大量のカロリーを摂取するためには、例えば根菜なんかも火を使って煮炊きをし、消化率を良くしているんですね。こういった「煮炊きする」ということも、一人で生活しているとなかなか難しく、社会集団を営んで文化を伝えていかないといけません。この本は、ヒトの食と知性は深い関係があることも教えてくれます。そういった意味でも、おすすめの本です。
そして著者の西田先生は、とても残念なことなのですが、今年亡くなられました。懇意にしていただいていたので……恩返しの意味もこめて推薦したいですね。

なるほど。今日はお話ありがとうございました。

オススメ本Q&A

学生向けのオススメ本高崎山のサル」(著:伊谷 純一郎)
人間はどこまで動物か」(著:ポルトマン)

先生自身のお気に入りの本ゴリラの子育て日記」(著:中道正之)

テーマ「未来」と聞いて思い浮かぶ本創造―生物多様性を守るためのアピール」(著:エドワード・O.ウィルソン)
生命の多様性〈上〉〈下〉」(著:エドワード・O.ウィルソン)
動物の食に学ぶ」(著:西田敏貞)

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