公共経済学  Horn Thearaさん ―― カンボジアと水道と経済と

*** 笑いの絶えなかった、70分に及ぶインタビュー。紙面に掲載しきれなかった部分を含め紹介します ***

公共経済学って何ですか?
 公共経済学は、資源配分の効率性と所得配分の公平性などを達成できるために政府などがどのような役割を果たすか、分析する学問です。それを説明するためには、経済の構造の中で主な要素が何かを考えると、理解しやすいでしょう。

 経済の主な3本の柱として、家計、企業、政府があります。家計の行動としては、企業に労働を供給して、賃金をもらって、ある程度の所得を持っています。その所得の制約のもとで、消費をします。消費では、企業から物を買います。企業の行動は、家計から労働を買って、物を生産します。そして、家計に賃金を支払ったり、物を売ったりします。その行動は、家計が自分の労働と企業の生産した財を交換するようです。

 しかし、それに関して、経済がうまく動くためには、政府の役割もあります。家計が所得をもらってから、その所得によって働く動機をなくさないようにしたり、人と人の間に公平性があるようにしたりといったことは、政府がうまく行動をとることで実現できるかもしれません。たとえば、裕福な家に生まれたAさんとそうでない家に生まれたBさんの間には、不平等が生まれる可能性があります。そのため、税金、すなわち所得税や相続税をとることで、次の世代のチャンスを平等にする、というのも政府の役目です。また、企業の生産に関連する問題もたくさんあります。物を生産する時、市場の中で企業が一つしかないか、企業の数が少ないと、独占か寡占企業になります。たとえば国の中で、ある商品を生産する企業がA社しかないとすると、どんな値段であってもA社からその商品を買わないといけなくなる。つまり、物を供給する時、市場で競争が起こらず、少数の企業が価格をコントロールする可能性があります。この場合、政府が介入して競争ができるようにする必要があります。また、生産する時に環境汚染などが発生する場合もあります。さらに、ある種の財は民間で供給できません。例えば外交や国民保険などは政府が供給しなければなりません。その場合も、政府が市場に介入する必要があります。

 家計や企業の行動の中でも細かいところまでみれば、生活や生産の環境、様々なものと関連します。経済の問題は単純には解決できないと思います。各部分に注目して、問題を理解して、問題の原因を探し、解決する必要があると思います。公共部門も、そうでしょう。公共部門は、インフラなど、誰のものでもなく皆さんの生活に関わる公共財を考える部門です。公共部門は広い分野です。問題もいろいろあります。政府も人間、神様ではないから政府も失敗する場合もあります。すべての人にとって「正しい」やり方を見つけるのは難しいですが、一つ一つの問題に注目して、解決する方法を研究する必要があると思います。一つの研究じゃ足りないと思いますが、たくさんの人の研究をあわせて、完璧ではなくても良い方法を見つけていきたいです。

世界を家計、企業、政府などに分けて、それぞれの分担を考えていく、というのが経済学的な発想ということでしょうか。
 そうですね。国が他の国と貿易をやっている場合、外国との間での輸出入も考えます。それら、家計、企業、政府、あるいは貿易を考えて、その国の人々の幸福をどのようにして最大にすることができるか、というのが経済学的な発想でしょう。家計の効用を最大化、あるいは嬉しさを最大化するとか、企業の利潤を最大化するとか、どのように人々の幸せを最大にできるかを考える学問の一つですね。その中で、公共部門の行動を分析するのが、公共経済学です。

なぜ日本に?
 日本は、カンボジアにとって友達といえる存在ですね。イメージ的には、金持ちというのもあるかもしれないけど、技術がすごいですね。また、日本は、カンボジアで内戦が終わって、九十年代に入ってから、橋とか道路とかインフラを整備して。日本はそういうすごい技術を持っているというイメージで、これが一つの理由です。それから、日本は先進国ですから、もし日本に留学できるなら、自分の将来は安心ですね。それがもう一つの主な理由です。カンボジアの人的な資本を成長させることでは、日本が主な支援国の一つですね。日本人はカンボジアがかわいそうと思っているみたいで、心から支援しているようです。それで、なんか友達になれれば良いと思って日本へ来ました。

大阪について、どう思いますか。
 日本に来たばかりのころは、大阪がどんな所か知らなかったけれど、今は大阪が暮らしやすいです。東京ほど人は多くないけれど、優しい人が多い。それでずっと阪大にいます。成人式は池田の文化センターで。大阪で大人になりました。

池田市民なんですね。
 そう、池田市民です。

カンボジア人から見て、日本語のどんなところが難しいですか。
 日本語で難しいのは、まず文法でした。カンボジア語は英語みたいに主語、動詞、目的語という順番なので、日本語とはかなり違う。最初のころはかなり考えて、ここには目的語を持ってきて、とやっていました。今は考えなくても話せるようになりましたが、まだ単語が足りない。日本の言葉は、漢字の組み合わせでできているものが多いですよね。一つの漢字、たとえば「解決」の「決」という漢字が「決断」としても使える。漢字の意味がわかると、単語もたくさん増やせるのですが、逆に漢字の意味を覚えないと、単語が増やせないと感じています。中国みたいに漢字文化圏の人だったら、単語も覚えやすいのでしょうが……

日本でのカルチャーショックは?
 最初に日本に来た時、学生の寮に入るところで、スリッパを履き替えること。それが最初のショックでした。

 また、カンボジアではストレートにしゃべることが多いけど、日本人のほうはたぶん、よく相手の心を、気持ちを考えるから、直接的に答えない場合もありますね。それから、カンボジアだったら、知り合いに会ったら道とかでもいつもあいさつするけど、日本人は時々あいさつしない、必要がない時はちょっと見ても無視したりして、結局沈黙とかいうこともあります。すべての人ではなくて、人によって違うのですね。

 食べ物では生の魚とか、それはショックじゃなくて文化の違いですね。日本に来たてのころ、留学生のパーティーで寿司がでたのですが、ぼくが食べられたのは焼き卵とえびくらい。一年目は生の魚が食べられませんでした。一年間くらいたってから食べられるようになって、今では寿司が好きになりました。

いつからインフラに興味をもったのですか。
 日本に来る前、ぼくは一度カンボジアの大学に入学しました。その時は土木学専攻だったので、その流れでインフラ関係、というのはたぶんあるかもしれません。けれど、本当のきっかけは、洪水。カンボジアの下水道などは古くて、内戦の時とかは整備していなかったから、土や木の葉がいっぱい詰まっていて雨が降ると洪水になります。なんでそんな洪水が今の時代にまだあるのかなって思って。それで多くの人の暮らしを良くするために、自分が経済でもなんででも、そういうもので解決できるなら貢献したいなと思ってインフラ関係を研究しています。

インフラをどう良くしていくかって、どのように調査するのですか?
 去年、カンボジアに行ってアンケート調査をしました。直接インタビューに行きました。二百世帯くらいは行きました。カンボジア人はとても優しくて、調査に行った時、皆さんが協力してくれました。調査の対象は、首都のプノンペンの周りの人です。水を利用する状況や家族の生活などを質問しました。目的としては、将来、水道インフラがその地域まで整備された時、どのくらい料金を払いたいか、調べることです。料金設定制度をどのようにしたら、多くの人が水道水を利用できるか、実地で調査してきました。

子供のころは、何になりたかったのですか。
 子供のころはエンジニアになりたくて、それで土木学部に行きました。でも実際行ってみたらちょっと合わないって感じて、方向転換して、経済学へ。その時に学んだ理系の知識は今の研究でも少し活用しています。化学をやっていたことがあるから、面白そうなものがあると実験したくなって研究室や飲み会に持ってきちゃったり(笑)

博士課程に行ってから、人間関係はどんな感じですか。
 マスターでは知り合いが多かったけれど、博士行く人は少ないし、忙しいから、人に会う機会が減るんです。facebookなどでコミュニケートして、ネットを通して人と触れ合っている、というところもありますね。

研究生活はどうですか。
 研究はプレッシャーがかかっている。ちょっと辛い時もありますね。夜型になる学生も多いようです。一つのことに集中しすぎて周りが見えなくなっちゃったり、病気になったりということも。だから研究しながら健康にも気を使って、よく笑うようにしています。そのために時々冗談を言っているんです(笑)

 まあ、でもプレッシャーがかかっているのに頑張らないのはもっと辛いですし、辛いといっても、辛いことを体験したことが、何か人生の役に立つことがあるかも。また、ちゃんと問題に注目して研究したら、良い成果がでて、その成果が社会に役に立つことになる。そうなるのは嬉しいですし、それを考えたら、研究が楽しくなると思います。どんな仕事も辛いと考えたら辛いですね。研究する目的と目標があれば、研究者になるのは良いことです。学者が多い国は、その国の問題を解決しやすいでしょう。

十年後、どうありたいですか。
 今、自分の研究していることと、ある程度、つながった仕事が見つけられたら良いですね。できれば大学の先生になって、自分のしていることを伝えて、他の研究者と一緒に研究してカンボジアの将来経済問題を解決する方法を探せたら嬉しいです。自分がやりたいと思っていることが、自分の代で全部できるとは限らないけれど、次の時代の人に伝えてバトンを渡したい。カンボジアはまだまだ人的な資本を必要としているので、経済が発展するためには、人的な資本を発展させていくことがやらなければならないことの一つだと思います。それを達成できるように自分が何か貢献できるのが人生の目標です。特に、カンボジアがすこしずつ成長して、人々の生活が良くなるのを見るのは、国民の一人としてとても嬉しいですね。

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