時間生物学  TKさん―― 春のおとずれを知る方法

何を研究されているのですか。
生物が季節を感じるメカニズムについて研究しています。植物の開花とか、動物の繁殖行動とか、季節ごとに起こるものって多いですよね。それらの生物の現象は、一日の光の長さを感じることによって季節を判断して起こっています。専門用語では光周性と言います。生物が自分自身の体内時計を使って、その一日の特定の時間帯、例えば朝早い時間とか、夕方遅い時間に光があるかないかを感じることによって、季節を判断している、と考えられています。

体内時計?
 生物は外からの情報がなくても、ほぼ二十四時間間隔で寝たり起きたりといった行動を起こすことが、体内時計として知られています。ヒトの体内時計は実は約二十五時間で、暗闇で生活しているとずれていくのですが、朝に光を浴びて二十四時間に合わせていく。私たちが研究している季節というのは、その体内時計がある上で、特定の時間に光が当たることで季節性の反応を生じる、というものです。季節を感じるためには、外部からの光の情報と、体内時計の情報、その二種類の情報を統合するのが重要で、哺乳類での情報の統合は、脳の下垂体の一部、下垂体隆起葉という組織で起こると考えられています。最近、ウズラなどの飼育環境での日長を、秋冬のような短日条件から、春夏のような長日条件に変えてやると、下垂体隆起葉で甲状腺刺激ホルモンの遺伝子の発現が上昇、つまりその遺伝子のスイッチがオンになる、ということがわかってきました。

遺伝子って……、メンデルの豆のしわと丸とか、色とか、そういう性質を決めているあれですよね。
大雑把には、そうです。多くの生理現象は遺伝子のオンオフの組み合わせで制御されます。私たちは光周性に着目
しているので、季節性の反応が、どんな種類の遺伝子のオンオフによって制御されるのか調べようとしています。その甲状腺刺激ホルモンや、甲状腺ホルモンというのは代謝に関わっていると言われていたんですけれど、最近、動物の季節に合わせた生理現象を表示させるという、新しい役割が分かってきました。そこで、私たちの研究ではこの甲状腺刺激ホルモンの遺伝子に着目しています。時間の情報と光の情報が統合されたからこそその遺伝子のスイッチがオンになるということなので、この遺伝子を指標にして、マウスを使って、どうやって時間と光の情報が統合されているか明らかにする、という研究を行っています。―日が昇ってから沈むまでの時間がわかったら、沈むのが何時かがわからなくても良いのでは。それは面白いポイントで、単に十何時間光が当たれば良い、というわけではないんです。ある特定の時間帯を外した時間帯に光が存在していても、春夏の反応が起こらないということがいくつかの生物種で見られています。単純な長さでなくて、体内時計の特定の時刻に光がある、ということを感じるのが大事だろう、と考えられています。光があるだけでも時間があるだけでもだめで、特定の時間帯だけでその光の情報が伝わって、生理現象なりそういった状態の変化に伝わるってことが、何でできるのかってのがこの研究の面白いところだと。

なぜ体内時計を研究しようと思ったのですか。
私は修士を出たあと働いていたんですけど、修士や企業では、遺伝子一つ一つが生物の機能にどう関係しているかを調べていました。その頃、ヒトだったら二万三千個の遺伝子のスイッチのオンオフを一気に調べることができるような技術をよく見かけるようになりました。一個一個の遺伝子を調べるのも大事なんですけど、包括的に遺伝子全体を見て、その中で意味のある遺伝子のネットワークを見つける技術を身につけたいと思いました。また、ここのラボだと、見つけてきた遺伝子のネットワークが本当に生物の体内で機能しているか生物を使って検証していたり、体内時計に着目しているというところも魅力的でした。体内時計がなぜ魅力的かっていうと、幅広い生物種が持っている現象であることと、関係する中枢の組織や遺伝子ってのがある程度わかっていたんです。さらに、体内時計は二十四時間の周期で評価できるから、着目する遺伝子が本当に機能しているか検証する時に扱いやすいからです。

子供の頃、他の夢はありましたか。
研究者に漠然と憧れていましたね。何かこう、楽しそうなことやっているなーって言う感じで。高校で生物をやっていた頃、少しずつ遺伝子が設計図になって生命をつくっているっていうことがわかってきて、遺伝子なんてATGCっていうたった四種類の塩基がぶわーって並んでいるだけなのに、こんな複雑な組織であったり、意識であったり、複雑な人間をどうやってつくっているんだろうってのがもともとのモチベーションなんです。一気に遺伝子全体を見る技術ができて、どうやって生命現象の設計図が成り立っているのかをごっそり見ることができるんじゃないかなって。それが理研で研究したいと思ったきっかけです。

これから先は、どうありたいですか。
やりたいことが二つあって、どうやって遺伝子がヒトをつくっているかについて研究を続けたいってことと、教育に携わる仕事がしたいってこと。大学の勉強って全く役に立たないとかよく言われますが、実際働いてみて思ったのが、ちゃんとやっていればすごく仕事に役立つな、ってことです。例えばレポートや発表。自分で情報を集めて、そこから考えを導きだしたり、人に伝える、議論する。研究でも、どうやってゴールに向かって進めていくかっていう手順を考えるのは、仕事に通じるところがあるんですね。ただ、学部とか修士にいた頃はそのことに全く気付いてなくて、授業に対して受け身に、難しいし眠いわーみたいな感じでだらーって過ごしてしまったんです。大学は良い教育・研究の機会なのに、私はもったいないことをいっぱいしてしまった。逆にもう少し授業が参加型や発信型であったらもっと役に立っていただろうなって思います。なるべくそのもったいないを減らして、こんだけ自分ができるようになったとか、そう思えるような場所になれば良いなあ。 よく博士の就職難云々で、学生や教育が悪いって言われているんですけど、会社の人が博士の能力や良さを理解していないってのも原因なんじゃないかなと思うんです。大学でなんとなく過ごしてきて、大学の勉強ってなんの役に立つんだとか、博士は自分の時間で勝手に生活して好きなことやっているだけだとかっていう考えの人が企業に多かったとしたら、採用の時に、博士は選べないってことが。まずその基礎的な大学とか大学院の教育を変えて、博士は色々能力を持っているし、厳しい中を頑張っているんだってことを理解してもらえれば、就職の状況が変わるんじゃないかなと思っています。

普段のTKさんについても聞きたいのですが……。 
趣味はドライブ。もともと私修士が熊本で、学部が島根大学だったんですけど、あっちの方は車社会なんで、乗っている時にどんどんはまっちゃって。でも今、車に乗らなくなってしまったので、趣味は……芸術鑑賞とかビールを飲むとか( 笑)。効率良く研究を進めるためには適度に休息をとるのが必須だなって結構失敗して感じているし、上の人からもよく言われるんで、無駄に長く研究室にいないようにして、できるだけ集中して作業して、週一回は休むとか。休む時には友達とかと遊んだり、研究だけにならないようには気をつけています。

日本の研究者の満足度はとても低いらしいですね。
 働いている時の意識の違いだと思うんです。やらされている、働かされているという感覚があるとどうしても満足度が低くなる。自分がやりたいこととか、面白いことを見つけながら研究を進めていくと、やらされている感がない。私なんか好きで博士課程来ているんだけど、楽しんでやっている。それから、金瀬的な面もすごく大きいだろうなあって。海外の大学だと、博士過程だとほぼ一人前の研究者として、それなりのお金が賄われることが多いんですけど、日本は学振とか、枠が少ないものを取らないと厳しいんですね。それも満足度の低い原因かな。落ち着いて生活できない。研究もすごく時間かかるし、バイトも忙しいし、……。自分自身で満足度をできるだけ上げるようにはしていますけど、そういった制度自体も変われば、もっと全体的な満足度が上がるのにもったいないなあって。

では、最後に十段階評価で満足度をお願いします。
どうだろな、八くらいかな。満点は言えないです。満点言うとその先がなくなっちゃうので。八ぐらいで。

<編集部より>
神戸理研で行われたインタビューでは、高校生物を思い出す作業に始まり、ワールドカップ、メラトニン、大学教育…と、様々な話題で盛り上がりました。某編集委員は、「高校で勉強した生物はわけがわからなかったけれど、やっと現実とつながった」というような感想を持ったとのこと。紙面に載せられなかったエピソードは少しずつ、このページで公開していきます。

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